白湯(さゆ)は、やかんがひとつあれば今日から始められる、いちばん身近な習慣です。 でも、「白湯」と聞いて思い浮かべるものは、人によってずいぶん違うかもしれません。辞書を引くと、白湯とは「真水を沸かしただけの湯」(小学館デジタル大辞泉)とあります。定義はとてもシンプルで、温度も、沸かす時間も、細かくは決まっていません。 だからある人にとっては電子レンジで温めた一杯かもしれないし、別の人にとっては、やかんでコトコト沸かした一杯かもしれません。 白湯は「さゆ」「しらゆ」「はくとう」「パイタン」と読みが分かれ、読みによって意味が変わります。「パイタン」と読めば鶏ガラや豚骨を煮込んだ白濁スープを指します。同じ「白湯」の二文字でも、これだけ発想が割れる単語です。 雨に豪雨も霧雨もあるように、同じ「白湯」という言葉でも、思い描くものは実にさまざまです。 ところでアーユルヴェーダの世界に一歩入ると、この「白湯」がおどろくほど奥行きのあるものだと分かります。温めただけのお湯と白湯ははっきり区別され、沸かし方や温度に意味が与えられ、さらに古典には「煮詰めてつくる白湯」まで登場します。 このページでは、白湯の作り方とその先にある、アーユルヴェーダの古典に伝わる白湯の考え方までご案内します。白湯はこの数年でぐっと一般的になりました。マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが2022年3月に全国47都道府県の20〜69歳男女1,100人を対象に実施した「白湯に関する調査(2022年)」では、白湯を飲むことがあると答えた人は60.9%(女性67.5%、男性54.4%)。飲む理由としては「温まりたい」「内臓や腸を冷やしたくない」「体にいいと聞いた」などの声が挙がっています。 コンビニやスーパーでも、温かい白湯のペットボトルを見かけるようになりました。アサヒ飲料は2022年11月に「アサヒ おいしい水 天然水 白湯」を期間限定で発売し、2023年9月からは通年販売、2024年9月には340mlから475mlへ増量しています。同社は2014年にも「富士山のバナジウム天然水ホット」という名でホットの水を販売していましたが、当時は白湯という言葉自体がまだなじみ薄く、大きくは広がらなかったといいます。「白湯」という呼び名とともに、温活やノンカフェインという文脈が定着してきたことがうかがえます。 白湯そのものは、誰でも簡単につくれて、カフェインも糖分もカロリーもありません。だからこそ、暮らしの中に無理なく取り入れられる習慣として広がってきたのだと考えられます。
お湯は、水を温めたものです。一方、白湯は、水を一度しっかり沸騰させ、そのまま10〜15分ほど沸かし続けると良いとよく言われますが、これは近年の通例で、古典書に時間が定められているわけではありません。
作る時のポイントは
などが挙げられます。「温める」と「沸かし続ける」。この違いは、味にそのまま表れます。
水道水に含まれる塩素は、加熱によって揮発していきます。香港の研究者が行った実験では、水道水を室温から沸騰させる過程で残留塩素を計測したところ、沸騰に達した時点で大きく減少していたと報告されています(出典: Zhang, L.A., "Removal of Chlorine Residual in Tap Water by Boiling or Adding Ascorbic Acid," International Journal of Engineering Research and Applications, Vol.3, Issue 5, 2013)。日本の一般的な水道水に含まれる程度の塩素であれば、沸騰させることでその多くが抜けていくと考えられます。 なお、東京都水道局は、カルキ臭が気になる場合の方法として、蓋を半開きにして弱火で5分から10分ほど加熱し、冷ましてから飲む方法を案内しています。「10〜15分ほど沸かす」という通説は、こうした生活上の目安が広まったものと考えられ、古典に由来するものではありません。 塩素が抜けると、口当たりがやわらかく、ほのかな甘みさえ感じられます。電気ポットのお湯と、やかんで時間をかけて沸かした白湯を飲み比べると、同じ水から出発したとは思えないほど印象が変わります。 ただし、塩素が抜けた水は雑菌が繁殖しやすくなるため、その日のうちに飲みきるのがよいと東京都水道局も注意を促しています。「ただ温める」のではなく「しっかり沸かす」ことが大切にされてきましたし、温度についても、古典は丁寧です。サンスクリット語には、ぬるめの温かさを指す「コーシュナ(koṣṇa)」という言葉があり、煎じ液を飲むときの温度の目安として古典に登場します。「どのくらい温かいか」が、それ自体ひとつの主題として扱われてきたのです。
ここからは、日本ではほとんど紹介されていない部分です。
アーユルヴェーダの古典には、水を沸かすだけでなく、元の量の2分の1、4分の1、8分の1といった決められた量まで煮詰めてつくる白湯が登場します。サンスクリット語で「ウシュノーダカ(uṣṇodaka)」と呼ばれ、煮詰める度合いによって白湯の性質が変わるため、その人の体質や季節、そのときの状態に合わせて選ぶ、と古典では説明されています。
つまりアーユルヴェーダにおける白湯は、「温かいお湯」というひとつの飲みものではなく、つくり方によって使い分ける、奥行きのある体系なのです。
どの煮詰め方をどんなときに選ぶのかは、体質の見立てと結びついた専門的な領域にあたります。私たちはこの部分を、インドの伝統医の解説とともに、講座などの学びの場で丁寧にお伝えしていきたいと考えています。
2026年6月末に開催した宿泊型プログラム(Step1)では、11代にわたってアーユルヴェーダ医療を継承する家系の医師を日本に招き、講義と実践の時間を持ちました。
そのなかで、白湯というテーマひとつに、まるまる2時間の講義がありました。作り方はもちろん、沸かす容器の材質による違い、飲み方まで。材質については、水と反応しにくいものが古典では大切にされてきたといった話もありました。実践として3種類の飲み比べも行い、同じ水から出発しても、つくり方で味わいがはっきり変わることを、参加者全員で体験しました。
このときの様子は、活動報告「Step1宿泊型プログラム開催しました」もご紹介しています。
白湯を「使い分ける」という古典の発想の出発点は、自分自身の体質を知ることにあります。
アーユルヴェーダの体質の考え方(ドーシャ)については、アーユルヴェーダとはのページでご紹介しています。ご自身の傾向を知る手がかりとして、体質セルフチェックもご利用いただけます。